田月仙さん オペラ歌手(ひと)南北朝鮮での舞台は日本で生かせますか

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 声楽家にとって、歌声を奏でる自分の体は楽器そのものだ。その体が在日コリアン二世であることが、悲しみも喜びも生んだ。

 両親とも韓国・慶尚南道出身。東京に生まれ、高校卒業にあたる年まで朝鮮学校で民族教育を受けた。「日本で暮らすかぎりは、日本で学べる音楽のすべてを吸収したい」と日本の音大を志したが、受験直前に「高卒の資格はない」と門前払いされた。

 父の事業の失敗とも重なり、アルバイトをして学費をつくり、桐朋学園短大に入学。

八三年にデビューした時からは、「南北の舞台を踏んで、祖国が一つであることを確認したい」と思い続けた。

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開かれた音楽祭に招待されたのが一九八五年。昨年秋には韓国・ソウルのオペラハウスで「カルメン」の主役を演じ、在日初の「南北公演」を果たした。

 分断した両国の舞台に立つことができたのは「在日だから」だったのかもしれない。

「朝鮮半島だけでなく、日本にも朝鮮民族の魂があるんだ」。歌声を通して、在日の存在感をアピールできたのがうれしかった。

 今度は「祖国は一つ」の思いを、在日にも届けたい。ずっと朝鮮籍だったのを、より自由な活動を求めて韓国籍に変えただけで、受け止め方が変わる周囲の現実は悲しい。

 日本人にも、在日がいまだに家族離散に苦しみ、戦後が決して終わっていないことを知ってほしい。「南北公演」以来、初めての本格的なリサイタルとなる五月十二日(東京・中野ゼロホール)には、日本の植民地下での抵抗の歌もそっと紛れ込ませながら「情熱の女」カルメンを舞う。

 「日本人に交じって一人でも多くの在日に私の歌を聴いてもらえれば。戦後五十年の、私なりのけじめです」

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 チョン・ウォルソン 「オペラは総合芸術だから好き。得意な踊りも見てほしい」。