朝鮮王朝最後の皇太子妃 生涯描いたオペラが27日上演
在日2世 田さん 「現状に風穴を」

 戦前、韓国併合に伴う政略結婚で日本の皇族から朝鮮王朝最後の皇太子に嫁いだ故李方子(りまさこ)さんの生涯を描く創作オペラ「ザ・ラストクイーン」が二十七日、都内で上演される。「悲劇の皇太子妃」は戦後、反日感情の強い韓国で障害児福祉に尽くし、日韓の懸け橋となった。在日コリアン二世のソプラノ歌手の田月仙(チョンウォルソン)さん(57)が「方子妃の人生を伝え、混迷する日韓関係に一つの風穴を開けたい」と企画、自ら主演する。 (辻渕智之)
 オペラは、方子さんが十四歳の夏に自らの婚約を新聞で知り、ぼうぜんとする場面で始まる。舞台は一時間半で、現代音楽に朝鮮半島のリズムや日本のメロディーを取り入れた新作。毒殺も噂(うわさ)された生後八カ月の長男の急死を嘆く「この悲しみよ」、夫の死後も韓国に残る決意を歌う「あなたと一緒に」とアリアが続く。
 方子さんの夫、李垠(りぎん)さんは十一歳で半ば人質として日本に留学させられる。陸軍中将まで昇進したが、終戦後は朝鮮王族の身分と資産を失い、帰国も難航する。方子さんを演じる田さんは「李垠殿下は『自分は、韓国人でも日本人でもない』と絶望される。方子妃も日韓の不幸な歴史に翻弄(ほんろう)されながら、互いに苦悩を理解しあうことで、真実の愛を深めた」とみる。
 田さんは東京都立川市出身。学んだ音大で、歌への賛辞に「日本人にはないものがある」との評価がつきまとった。初の韓国公演では、在日の歌手として好奇の目で見られた。「日韓どちらでも私は異邦人」。両国のはざまで生きる立場に苦しんできた。
 しかし、日韓や北朝鮮の首脳の前など、さまざまな舞台で歌い続けるうち、「在日の私だから、日本の歌も韓国の歌も自分の歌として歌える」と二つの祖国を持つ誇りに昇華した。
 オペラの構想は十年来温め、方子さんを知る人物を日韓各地に訪ね歩いた。「最後は尊敬され、『韓国のオモニ(母)』とまで呼ばれた方子妃にも二つの愛する祖国、ふるさとがあった」と確信した。台本も共作で手掛け、舞台では、方子さんが着用した王朝の特別な大礼服「チョグィ」を再現した衣装もまとう。作曲は東京音大卒の若手、孫東勲(ソンドンフン)さん。
 国交正常化五十年の今年も日韓関係はぎくしゃくしている。
 「日本は敗戦し、朝鮮半島は分断されたまま。殿下と方子妃のように、日韓も互いの歴史の痛みを共有できる関係になれば未来に向かえるのでは」
 公演は新国立劇場(渋谷区)で午後二時と五時。問い合わせはカラフネット=電03(3366)1229=へ。
 <李方子(り・まさこ)>韓国読みはイ・バンジャ。1901〜89年。当時の皇族、梨本宮守正王の長女。20年、朝鮮王朝の皇太子だった李垠さんと日本で結婚。第2次世界大戦の敗戦を日本で迎える。63年に病床の李垠さんと渡韓、李垠さんが70年に死去した後も韓国で暮らした。障害児支援の業績で韓国政府から国民勲章を受けた。

201406毎日新聞

Chon Wolson officilal Website www.wolson.com